エスプール“らしさ”を紡ぎ、あなたに届けるメディア。
エスプールは創業以来、「社会課題を解決するビジネス」を軸に成長を続けてきました。現在は、障がい者雇用支援サービスや広域行政BPOサービス、環境経営支援サービスといった多岐にわたる領域で、独自のシェアリングビジネスを展開しています。しかし、その歩みは決して平坦なものではありませんでした。創業当初の想いからリーマン・ショックによる経営危機、そして再起と未来への挑戦まで──。エスプール代表・浦上壮平氏の視点から紐解きます。
私は大学時代からベンチャービジネスに関心を持ち、卒業後はいくつかの起業に携わってきました。その中で、自ら事業をゼロから創り出す面白さと同時に、厳しさや責任の重さも実感しました。そして1999年12月、33歳の時にエスプールを創業しました。
創業時に私が着目したのは、当時社会問題として取り上げられていた「フリーターの増加」です。当時の日本はバブル崩壊後の就職氷河期に直面しており、学歴があっても、一度レールを外れると、正規雇用への道が極端に狭まる。そうした社会の構造に強い疑問と課題意識を抱き、私は「就職支援事業」を最初の事業として立ち上げました。
これは今でいう人材マッチングサービスにあたるもので、当時としては新しい取り組みでした。インターネットの普及も追い風となり、事業は急成長を遂げ、エスプールはスタートアップ企業として注目を集める存在となっていきました。
私が目指していたのは、単なる就職支援ではありません。本当に実現したかったのは、「経営者を輩出する会社」を創ることでした。その想いに決定的な火をつけたのが、1999年の日産自動車の経営危機と、カルロス・ゴーン氏の登場です。なぜ日本の大企業が、経営の立て直しを外国人に委ねなければならなかったのか。それは、若いうちから経営に挑戦できる環境が日本には乏しく、経営の実践経験を積んだ人材が育っていないという、深刻な構造的課題があったと考えています。だからこそ私は、エスプールを「経営者を育てる土壌」にすることを決意しました。単なる就職支援にとどまらず、ビジネスを通じて人材を鍛え、任せ、育てていく。それが、創業当初から掲げてきた私のビジョンです。
順調に成長を続けていた当社は、創業2年目には約6億円の資金調達に成功。その後、短期人材派遣市場に参入し、2006年には大証ヘラクレス市場(現・東証グロース)への上場も果たしました。さらに、システムエンジニア派遣会社の買収など、次の成長戦略に舵を切った矢先に、リーマン・ショックが発生しました。景気が急速に冷え込み、買収先の事業は大赤字に転落。当社の売上にも大きな打撃が及び、最終的に債務超過にまで追い込まれました。従業員数も350人から100人以下にまで減少するなど、創業以来最大の経営危機を迎えることとなりました。
あの苦境の中だからこそ、私たちは原点に立ち返ることができました。「エスプールは何のために存在するのか?」──残った社員たちと徹底的に議論を重ねた末、「社会課題の解決を軸にした事業展開」へと舵を切る決断を下しました。
このタイミングで生まれたのが、現在の柱である「障がい者雇用支援事業」です。また、不確実性の高い環境でも耐えられるよう、収益源を複数に分散させる「ポートフォリオ経営」へとシフトすることを決意。さらに、複数企業が共同利用できる「シェアリングモデル」へと事業構造を転換し、安定的な収益基盤の構築を進めていきました。
2023年11月期には、10期連続の増収、7期連続の増益が途切れる結果となりました。この状況は決して望ましいものではありませんが、私はこれを「戦略転換の好機」と捉えました。これまで当社は、一つの市場に対して、一つの強い商品を投入し、シェアを獲得を目指す「一点突破型」の戦略を主軸としてきました。
例えば、障がい者雇用支援サービスの「わーくはぴねす農園」は、600社を超える企業が利用していますが、その多くはこのサービス単体での利用にとどまっています。つまり、深掘りの余地があるということです。
今後は、新たな市場の創造に挑み続けると同時に、既存顧客に対して複数のサービスを提供する「クロスセル」や、より高度な提案を行う「アップセル」を強化し、事業の面的な広がりを図る「面的拡張型戦略」へと進化させていきます。
エスプールでは、年齢や社歴に関係なく、実力次第で大きな裁量を得られる企業文化が根付いています。実際、現在のグループ会社8社の社長は、すべて30代〜40代前半の若手で構成されています。
こうした挑戦を支える基盤として、本社が財務・労務・法務などのバックオフィス業務を一括してサポートする体制を整えています。若手経営者が事業運営に集中できる環境を整えることで、早い段階から経営の成功体験を積むことを重視しているのです。
若手がより大きな挑戦に踏み出せる仕組みとして導入したのが、「社内カンパニー制度」です。この制度では、既存市場で新たな価値を創出するビジネスプランを自ら構想し、その責任者となって事業を展開することができます。入社2〜3年目の社員でもチャレンジ可能で、成果次第では年収1,000万円以上を実現することも十分に可能です。すでに成功事例も生まれており、「あの人ができたなら、自分にもできるかもしれない」というポジティブな連鎖が、社内に新たな活力を生んでいます。
現在、私が最も注目しているのが「地方創生」です。日本全体で人口減少や高齢化が進む中で、地方の持続可能性は、まさに日本の未来を左右する重要な課題です。しかし実際には、多くの自治体が人手やノウハウの不足といった構造的な課題を抱えており、有効な打ち手を見出せずに苦しんでいるのが現状です。私たちはこれまでの事業で培ってきた経験を活かし、自治体の課題に真摯に向き合いながら、地域の魅力発信や人口流入施策を促す施策を支援していきたいと考えています。
地方の中小企業の中には、事業は安定していても後継者が不在で将来に不安を抱えているケースは少なくありません。私たちは、そうした企業に対して、経営支援や人材マッチングの仕組みを提供し、事業の継続をサポートしています。さらに、都市部で経験を積んだ人材が、地方企業の第二創業者として移住・転職し、新たな挑戦に踏み出せる仕組みも整えています。この取り組みが成功すれば、同様のビジネスモデルを採用する企業も増えていくでしょう。私は、むしろそうした広がりを歓迎しています。他社にもこうした動きが波及していくことで、本当の意味での地方創生が実現すると信じているからです。社会は、1社だけの力だけで変えられるものではありません。私たちの事業が、日本の未来を100年、200年先まで持続可能なものにする一助となることを、心から願っています。
「社会は、1社の力だけでは変えられない」——そう語る浦上氏の言葉には、エスプールの理念とビジョンが凝縮されています。社会的価値と経済的価値の両立を追求しながら、課題解決型のビジネスモデルを磨き続けるエスプール。これからも、「社会に必要とされ続ける会社」を目指し、100年先の未来を見据えた挑戦を続けていきます。